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ハチミツなどが原因で命に関わることもある「乳児ボツリヌス症」

  • 1月12日
  • 読了時間: 5分

2017年3月30日、生後6か月の乳児が、ハチミツの摂取が原因と考えられる「乳児ボツリヌス症」で亡くなるという、非常に痛ましい出来事がありました。


日本では、1986年に千葉県で重い神経症状を示した本邦初の乳児ボツリヌス症が報告され、その原因がハチミツであることが判明しました。以後、厳重な注意喚起がなされてきましたが、その後も散発的に発生が続き、時間の経過とともに情報が十分に伝わらなくなっていた中で、初めての死亡例が起きてしまいました。

 

メカニズム

ボツリヌス菌は芽胞の状態で世界中の土壌、河川、湖沼、海水、泥などの自然界に広く分布しています。このため、農作物、魚介類、動物の肉などのあらゆる食品の原材料がボツリヌス菌に汚染される可能性があります。

ボツリヌス菌が芽胞から発芽して産生したボツリヌス毒素は、神経終末部に作用して、筋を麻痺させたり、自律神経が作用しないようにブロックします。自然界に存在する毒素としては最も強力であります。

芽胞は120℃で4分間の加熱で、毒素は100℃で1~2分の加熱でなければ失活しません。

ボツリヌス毒素が付着した食物を食べることにより症状が出る「ボツリヌス症(食中毒)」と、芽胞を摂取して、腸の中で発芽し毒素が産生されることにより症状が出る「乳児ボツリヌス症」とに大きく分かれます。

成人(1歳以上の小児も)では、芽胞を摂取しても、ボツリヌス菌は不活化されるので発芽・毒素産生に至らないのですが、乳児(1歳未満)では、乳児の腸内細菌叢が未発達であるので、ボツリヌス菌が不活化されずに増殖し発芽し毒素が産生されてしまうと考えられています。

 

症状

ボツリヌス毒素のメカニズムから、成人や小児では、四肢の麻痺、重症になると呼吸筋も麻痺して死に至ります。複視(物が二重に見える)・嚥下困難・構語障害(上手くしゃべれない)・発声困難・排尿障害・喉の渇きなどがみられ、発熱はなく、意識もはっきりしています。


乳児では、便秘が先行し、動作の減少・無表情・哺乳力不良・弱い泣き声そして全身の筋力低下が起こります。


直接毒素を摂取するボツリヌス症では、潜伏期は12~18時間(6時間~8日)でありますが、乳児ボツリヌス症は芽胞から毒素産生までの期間があるので、潜伏期間は3~30日と推定されています。


実例

ボツリヌス症(食中毒)事件として、有名なのが1984年熊本県で製造された真空パックの「辛子蓮根」を食べた36人中11人が死亡した事件です。蓮根の滅菌処理を怠り、パック内でボツリヌス菌が繁殖したためと判りました。その後約28年間に29件の食中毒事例があり、最も多いのが「いずし」14件でした。


乳児ボツリヌス症の日本での初報告は、1986年の千葉県の症例でした。それまで健康で発達も正常だった生後2か月半の男児が、哺乳力の著明な低下と全身の筋力低下で入院しました。便秘,高血圧,全身の筋力低下,吸啜力・嚥下反射の低下,眼瞼下垂,瞳光散大,呼吸困難などの症状が「乳児ボツリヌス症」に当てはまるのではないかと疑い、患児の糞便および患児に時々ジュースに入れて飲ませていたハチミツを検査したところ、A型ボツリヌス菌および毒素が検出されました。この子は一命は取り留めました。


日本でもアジアでも第一例の「乳児ボツリヌス症」が報告されました。よく本症を疑ったと小児科医が感嘆しました。多分、それまでは見逃されていたか、別の病気と思われていたのではないかと推測します。そして、厚生省は1987年10月の通知で「1歳未満の乳児にハチミツを与えないよう」との注意喚起をしました。

今年の東京都の死亡例は、生後5か月で、けいれん・呼吸不全となって救急搬送されました。残念ながら約1か月後に死亡しました。発症の約1か月前から離乳食として市販のジュースにハチミツを混ぜたものを与えていました。患者の便・ハチミツからボツリヌス菌が検出されました。

2006年9月に宮城県内で1カ月齢の乳児のボツリヌス症が報告されました。粉ミルクの調乳と白湯に井戸水を使用していて、患者宅の井戸水と患者が使用している粉ミルクからボツリヌス菌A型毒素が検出されました。

 

乳児に与えてはいけない食材

2012年5月時点で、国内の乳児ボツリヌス症は31症例が報告されています。ハチミツの摂取歴があるのは1989年までの12例で、ハチミツが原因とされた症例は1990年以降は発生していませんでした。全てのハチミツにボツリヌス菌があるわけではありませんが、5.3~6.6%という高率で検出されていますので、乳児にハチミツを与えてはいけません。ハチミツの瓶には「1歳未満には与えないように」との表示があります。しかし、インターネットでは離乳食にハチミツを使ったレシピ例があるようで注意して下さい。


ハチミツ以外では自家製野菜スープが原因として推定された例はありますが、ボツリヌス菌は、土壌、泥などに広く分布しているので、十分に食材を洗浄することも必要でしょう。コーンシロップが原因であると確定された例はありません。

 井戸水が原因となった例でも、患者宅を含めた15戸の井戸について調査と細菌検査、および水質検査が行われ、患者宅井戸水以外からボツリヌス菌は検出されませんでした。ですが9戸の井戸水が、水道法の飲用基準を満たしていないことが判明しましたので、やはり乳児には井戸水は使わないで下さい。

 

終わりに

今回の死亡例を機に、日本小児科学会と日本小児医療保健協議会栄養委員会が、会員向け提言として「蜂蜜による乳児ボツリヌス症の発症について2017.4.25」で注意喚起しました。筆者は上記栄養委員会の委員であること、本邦第1例報告をした野田弘昌先生(故人)が教室の後輩であることから執筆させていただきました。

(育児雑誌「チャイルドヘルス」からの依頼原稿より)

 

【参考文献】

1.国立感染症研究所レファレンス委員会、地方衛生研究所全国協議会:ボツリヌス症 平成24年12月07日 https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/botulism121207.pdf2.野田弘昌ら:「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例、国立感染症研究所感染症情報センター、病原微生物検出情報Vol.7 (1986/9[079])http://idsc.nih.go.jp/iasr/CD-ROM/records/07/07904.htm3.H.Noda et.al :Infant Botulism in Asia. Am.J.Dis.Child.142:125-126,19884.米国小児科学会:ボツリヌス中毒と乳児ボツリヌス中毒、米国小児科学会(編集)、岡部信彦(翻訳日本語版監修)、最新感染症ガイドR-Book2015、日本小児医事出版社(発行)、東京、p.294-297、20165.厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部監視安全課:蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症による死亡事案について(平成29年4月7日)http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000161263.pdf6.

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